最近あいみょんの【満月の夜なら】を聞いていると何だかとてもエモーショナルな気分になる荒木です。
さくらも咲いては散る運命、春というのはとても切なく死にたくなる季節ですね。
なんでこんな思いになるのかと言うとやはり別れと出会いの季節だからだと思うんですよね。
ここで『出会いと別れ。』と先に出会いが出てこないあたり自分らしいなと俯瞰して思うわけですが。
進級したり進学したりそれぞれ違う道を歩むということが自身の成長を否が応でも感じてしまうものですよね。まだまだ子供でいたいと思っていたあの頃の記憶も思い出されます。
その頃は手に入れたいと思ったものは簡単に手に入らなくて、でもなんにも行動できない自分に腹が立ちながら生きていました。それはそれは終わらない青春というものをしていた気がします。
たまにはそんな僕の昔の甘酸っぱい恋と呼んでいいものか解らない話でもしましょうかね。
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僕があの子を初めて見たのはいつだっただろうか。放課後に仲間たちとくだらない話をして教室に残っていたときに部活動にも入らない僕らは何をするでもなく教室で
「クラスでは誰が可愛いだの」
「昨日はなんのテレビみた」
「今週のハンターハンターまた休みか」
「誰と誰が付き合ってるらしいよ」
などのくだらない日常的なことを話して毎日過ごしていた。
その日もふと教室の窓から外を見てみると陸上部が練習している。
グラウンドに引かれた白線の位置に立ち『用意どん』で走る部員達、そのなかで短距離を走る彼女の姿を見た。
彼女はいつも苦しそうに走っていた。
ただその走っている瞬間のその姿はとても美しく高校生ながら芸術品のような完成されたものだな、と思い眺めていた。
長身でスレンダーな体格に黒いロングヘアーをポニーテールにしてまとめている彼女は苦しそうに走り終えたあとのグラウンドで座り込んでいる。
そんな姿をじっーっ見ていた僕に友達が声をかけた、
「そろそろ帰るぞ」
「ああ、うん」
もう少し彼女を見ていたかった僕は空返事のような返事をしつつ教室をあとにして自宅へ帰る。
僕は彼女の笑った顔は見た事がなかった。
彼女と知り合ったのは高校二年生の時にクラス替えがあって同じクラスになった時だ。
彼女はスポーツの特待生で陸上部に所属していた。後々聞いた話だがスポーツ推薦でこの学校に来たので結果を出し続けなくては行けないみたいだ。
彼女は短距離走の選手として陸上部で期待をされていて、このまま行けば全国も夢ではないと言われていたところだった。
その日も放課後ダラダラとクラスメイトと話しながら過ごしていた。しばらく時間を過ごし皆と帰る時に僕は校門の前まで来た時に教室にプリントを忘れたいたことを思い出した。
しかたなく友達には教室に忘れ物をしたからは先に帰っていいと伝え教室に戻った。
誰もいない教室にプリントを取りにいき机の中からプリントを取り、急いで階段をかけおり下駄箱で外履きに履き替える。ここで急いでみても友達はもう先に帰って見つからないとわかった瞬間に僕は落ち着ついて歩くことにした。
1人で自宅への帰り道に向かう時にそう、彼女はいた。
同じ方向への帰り道なので少し気まずい気もしたが彼女をよく見てみると、足を引きづっているのか変な歩き方をしていた。
「大丈夫?どうしたの?」
って声をかけると陸上部の練習中に靴紐が切れて転んで足を怪我したらしい。よく見てみるの運動靴の靴紐はそのまま切れていて足を引きづりながら歩いていた。
すねに擦り傷があったと思われるところは絆創膏が貼られていて治療されていた。しかし足にまだ響いているのか足を引きづっているのを見てると
「怪我は大したことは無いただ靴紐が切れて歩きにくいだけ」
と彼女は言った。
僕は自分の履いているスニーカーの靴紐を解きながら
「これつけなよ!」
と言って彼女の靴を預かりしっかりと結んであげた。
キョトンとした表情を浮かべたままの彼女にお構い無しに僕は靴紐をむすんでいく。
結び終えて彼女に靴を返した。
「僕の靴紐だからもしかしたら臭いかも」
なんて冗談を言ってみるとその結び終えた靴を彼女は自分の鼻に近づけている
「本当にくさい!!」
っと驚き大きな声を出し靴を落としてしまった。
そこで彼女はクスリと笑ったのだ。
僕もつられて笑う。
僕は彼女がこんなにも可愛く上品に笑うことを知らなかった。と同時にまたこの笑顔を見れるならなんでも出来るな!なんて思っていたのである。
それから僕は放課後に彼女が陸上の練習を終わる頃まで居残っては隙を見て彼女と帰った。
たわいもない話やくだらない話など彼女を笑わせるために沢山なんでも話した。
最初の頃よりも少しづつ打ち解けてきた気がして彼女は帰り道だけではなくクラスでもよく笑うようになった。何もかもが上手くいっていたこのころ、そう、この時までは本当に幸せだった。
それからしばらく経った頃いつもの様に放課後練習終わるまで待っていたら今日は彼女が練習に出てないことが分かった。彼女を待っていたものの、先に帰ったのだろうかどこにもその姿はなかった。
次の日彼女は学校を休んでいた。
何があったのだろうと僕は心配になり陸上部の女子に話を聞くと
先日の靴紐が切れて転んだ時にはなんともなかったはずの右足が実は靭帯を痛めていたらしくその後の練習で疲労がたまり靭帯損傷してしまったのだ。
昨日の練習に出る前に立ち上がることができなくなり病院へ行き今日は入院していることを知った。
来週は県大会が控えていた。彼女の出場は絶望的だろう。
入院している彼女を励ましに行こうかと思ったがそこでかけるべき声が見当たらないままその日は何も出来ずに次の日を迎えてしまった。
次の日彼女は松葉杖で学校に来た。
少し顔が浮腫んで見えることを誰も言えなかった。いつも通り振舞おうとしてもぎこちなくなってしまうという雰囲気、、、
それだけはダメだと自分に言い聞かせ明るく彼女を笑わせようと僕はいつも以上に話した。
彼女はまた笑ってくれた。
怪我して大会に出られない悔しさも沢山あるはずなのに周りの空気を壊さないように彼女は笑った。
ただいつものようにクスリと笑うのではなく無理やり大きな声を出してアハハと笑っているように聞こえとても強がって笑っているようだった。
ただ誰もそのことに気がついていないようで僕だけが気づいた。しかしそんなことを気にしても仕方ないと思いその場をすごしていた、このときはここからまた普段通りの生活が始まるのだと思った。
しかし彼女は転校することになった。
足の怪我は入院してから徐々に回復をしていたものの彼女は陸上でこの学校へ進学した身で走れないとわかると学校側からの特待生支援も無くなり免除されていた学費の負担が多くなる。
彼女の家は裕福とは言えない家庭で彼女の陸上部での活躍に期待され学費の免除を受けていたことをここで知った。
急に決まった彼女の転校、そして引越し。
あまりにも急な展開すぎて僕は知らないうちに涙をこぼしていた。
クラスの前でみんなに向けて一言お別れの言葉を話している彼女からの言葉が僕の耳には届かなかった。そして僕はそのまま顔を上げることことが出来ずに彼女は教室から去った。
ここで走って追いかけることが出来たらドラマみたいでカッコイイのかもしれないけど僕にはできなかった。
その日は泣きながら歩いて帰った。自宅に着いてからもなにもする気が起きず部屋のベッドに横たわったままいると玄関のチャイムがなる。
彼女が家に来てくれていたのだ。
最後教室できちんとお別れができなかったことを思い引越し準備のある中わざわざ来てくれたのだ。
僕はびっくりしながら玄関をあけるとと彼女は笑顔で立ちながこう言った。
「もう片方の靴紐もちょうだい」
「これ履いてまた走れるようにしたいから。」
と
僕は慌てて前にはいていた靴の反対の靴紐を解いて彼女にあげた。
その靴紐の匂いを嗅いで
「やっぱり本当にくさいね!」
とクスリと笑う彼女。
クスリと笑う笑顔を見れるのがこれが最後なんだなと僕は感じた。
『今までありがとうね!
これからも頑張って走るからね!』
と伝え彼女は本当に僕の前から去った。
僕は大きく手を振り彼女を笑顔で見送る。
僕は彼女のその『クスリ』と笑う笑い方が心から大好きだったんだなって感じたいつかの春の日。
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後日談というか今回のオチ。
春は別れと出会いの季節。
何が起こるかわからない人生なら後悔しない人生を選びましょうなどと言われたテンプレートは聞き飽きたかもしれません。
ただあの時彼女に好きと伝えられたらまた違うようになっていたのか?しかしその時の僕は伝えるという選択さえもなかったのです。
どうなっていたか答えは全て闇の中です。
それも人生これも人生。
この春こそは生きていたくなる春にしたいです。
ありがとうございました。